台風の日のレポート
台風22号の日、向島に居た。もともと行く予定だったのだが、このタイミングで台風がやってきた。これはチャンスと思い、フル装備で撮影・録音に出かけてきた。カイロ・レインコート上下・ポンチョ・長靴・タオル。機材はビニールでぐるぐる巻き、水の浸入はできるだけ防ぐ。
そんな感じで15時くらいに準備が終わって外を見たら、雨が強くなってきているのがわかった。結構降ってる。ここ何ヶ月か見てないような大雨だ。前日から続く雨で気温は下がってるし、どこもかしこもしっとりしてる。テレビでは台風が静岡に上陸したと伝えていた。台風が通過した地方の映像は相当なもので、もう少し待ったほうがよさそうだとしばらく待機。
16時。さらに雨が強くなってきて、人通りもなくなってくる。ちょっとどきどき。
16時半、東京は既に暴風域に入っており、大粒の雨がアスファルトを打ちつける。出発の時間だ。
外に出て歩いてみたら、風はまだそんなに強くない。普通の大雨程度だなーと思いつつ入り組んだ路地をなれない長靴でどしどしと歩いてゆくと、大雨のせいで雨どいから滝のように水が落ちてきている民家を発見。最初はこれにびびったけど、後になって考えてみるとソフトなほうだった、あれは。
気付いたら風が出てきたらしく、民家の塀の掲示板がばたばたしている。どんどん狭くなる路地、両サイドから流れる滝、たまに突風がポンチョを巻き上げる。この時くらいまではなんとか音をとってた、雨粒がマイクを叩きつけるのをなんとか保護しながらザーザービチャビチャって音がとれてた。でもこの後はすごかった。
某商店街のメインストリートに到着、時計を見る余裕はなし、ケイタイ出した瞬間に壊れる。暗くなってきてたからたぶん17時くらい。すごい雨と風、真っ直ぐに伸びる商店街を突風が短いスパンで吹きぬける。僕は眼鏡くんで、いつの間にか眼鏡が曇って視界が悪くなっていた。拭いてもなんの効果もない。強い風の前では前を向けない。何かが飛んでくるなんてなにも考えずにとりあえず顔に直撃してくる風雨を避ける。雨の直撃はおもちゃの銃で撃たれたときのように痛い。
その後30分から1時間くらいは、ものすごい風雨が容赦なく続いた。最悪の視界で見た商店街の風景は現実に思えなかった。光ってるものはぼんやりとしか見えないし、遠くの街灯を見ると雨が上下左右360度あらゆる方向から降ってきてるし、風に押されてよろよろしか歩けないし、遠くのほうから壊れた傘が飛んでくるし、録った音は建物が崩れ落ちるような轟音だし、もう笑うしかないよな状態で、ほんと笑った、叫んだ。信じられない…。テレビで見る台風の映像は小さい、アレは本物の映像かもしれないけど、お茶の間用だ。隣にいる友達と話すためには大声で叫ばなくちゃいけない。フル装備のつもりでもまだ甘い。目の前にあるリアルな台風は強い。
あんな状態で営業してた店もなかにはあって、そんな店は決まってキラキラして見えた。暗いところは極端に色が薄く感じたせいで、明るい部分はやたらと目立ってた。もう嫌だ!ってならなかったのは、そういう店だったり、街灯だったり、民家のオレンジの輝く窓だったり、光があったからだと思う。何もないところ、光のない暗闇であの風雨に襲われたら気が狂ってしまいそう。停電しなくて良かった。
たまに道行く人や、お店の人はなぜか影のように見えた。もうどこでもない街に見えた、知ってる商店街や東京の街並みはどこにもなかった。向島でも東京でもない亜空間。それはずっと続くみたいに感じた。
一時間後くらいに台風が去ったとき『帰ってきた』ってほんと思った。黒い空を見上げることができた。
台風のなかの街歩きは危険だけど、面白い。